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ブラックジャーナル

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2016年10月17日
ポジティブ

「長時間労働撲滅プロジェクト」、わずか2日で1万署名の意味

厚生労働省から過労死白書(過労死等防止対策白書)が発表された日に、電通の新入社員が過労自殺と報じられて以降、「過労」と「働き方」について考えさせられた数週間であった。

日本において、仕事を理由にした自殺者数は年間2千人以上。過労死として申請される件数が800件前後で、労災認定されるのはそのうち200件前後だ。

ニュースになるのはごく一部の大企業/有名企業か、勇気ある遺族が声を挙げたときだけ。中小企業で起きた過労死・過労自殺の多くは報道もされず、過酷な労働環境が世に知られることもない。被害者は泣き寝入りを強いられ、ブラック企業はのうのうと生き延びていく。

諸悪の根源である「長時間労働は当たり前」という意識と、「青天井の残業が実質的に合法」になってしまっている現状は、何が何でも変えねばならない。

わずか2日で1万人の署名

長時間労働を撲滅し、日本から過労死をなくそう!という「長時間労働撲滅プロジェクト」が発足し、署名活動がスタートした。
当初は「11月までに1万人の署名」を見込んでいたところ、開始からわずか2日で賛同者が1万人を達成。世の中に、それだけ強い危機意識が共有されていることが如実に現れたと感じている。

疑問や懐疑的見解に対する、私なりの回答

当該プロジェクトには、私も呼びかけ人のひとりとして名を連ねている。反響を見る限り、概ね好意的な賛同のご意見が多いようだが、中には懐疑的な考えを抱く方もおられるようだ。
では以下に、主な疑問や懐疑的なご意見に対して、私なりの考えを開陳させて頂こう。

(1)長時間労働ってそもそも違法なんでしょ?

⇒本来は違法なのだが、労使協定を結んだうえで、「特別条項」を設定すれば実質的に青天井で長時間労働をさせられる、という抜け穴が存在する。
東証一部上場企業で売上上位100社のうち実に7割の企業が、厚労省が「過労死ライン」と呼ぶ月80時間を超えて残業させられる取り決めをおこなっていたことが明らかになっている。
(具体的には、関西電力が月193時間、JTが180時間、三菱自動車が160時間など。2015年東京新聞報道による)

(2)「働き方改革」は政府の規定路線だから、ほっといてもなんとかなるんでしょ?

⇒そのような報道がなされているかもしれないが、水面下では攻防が繰り広げられている。
「働き方改革実現会議」は安倍総理自ら議長として参加するくらいの力の入れようだが、内部は一枚岩ではない。「企業ごとの事情もあるんだから、柔軟にやればいい」という意見は根強く、閣僚にも会議メンバーの中にも労働時間上限規制反対派が存在する。
2017年3月までに一定の結論が出される予定だが、それまでに気勢がシュリンクしないよう、世論の強さを知らしめる必要があるのだ。

(3)自らの意思で長時間労働したい人もいる!一律規制はおかしい!

⇒私も、新卒就職の際に自らの意思でブラック企業に身を投じた人間であるから、気持ちはよく分かる。「好きなことを仕事にし、没頭した結果として長時間労働になってしまっている人」とは昔の私自身であるし、現在の私の周囲にもそんな人は大勢いる。

では、なぜ「過労死」や「過労自殺」が起きてしまうのだろうか?

理由は単純ではないが、長時間労働をしている人の多くは「自らの意思に反して」「半強制的に仕事をさせられている」と感じているものの、「自ら声を挙げられない」存在なのだ。さらに、死を選んでしまう人の中には「責任感が強く」「自ら抱え込んでしまう」タイプの方も多い。

長時間労働の人全員が自律的かつ没頭的に働いているのなら何ら問題はなく、過労死など起こらないはずだ。しかしそれは「普通」ではない。これまで過労死に至ってしまったケースの中には、ハードワークを意に介さない経営者や上司が「自分にとっての普通」を部下に押し付けた結果として起きているパターンもあるのだから。

自ら声を挙げられないまま、抑圧されている人は多い。長時間労働したい人は、自分と周囲の価値観だけで世の中を判断すべきではないし、長時間労働の手段はなにも「残業」だけではないことに気づくべきなのだ。
(そもそも本プロジェクトでは、長時間労働が実質的に合法になり得る法制を改善しようとしているのであり、長時間労働そのものを否定しているわけではない)

(4)何かにつけて「反対!」とか「署名!」とか見苦しい!対案だせ対案を!

⇒よく読んでほしい。本プロジェクトでは、「所定外労働時間の上限規制」と「インターバル規則の義務化」がキッチリ実現されることを目指している、と明示している。
働き方改革会議のメンバーや、日々政策提言を実践している専門家たちも呼びかけ人として参加しており、あくまでアクションを起こすスタートラインに過ぎない。

そこまで問題意識をお持ちであるなら、あなたもぜひプロジェクトに参画し、対案を共に考えようではないか。

(5)労働基準監督署が厳しく取り締まればいいじゃないか!

⇒正論だが、現実的には難しい状況だ。
まず、労働基準監督官の数が足りず、中小企業までカバーしきれていない現状がある。
臨検監督を行う労働基準監督官は、全国で2,000人程度。1 人でも労働者を使用する事業所は全国に約 400 万箇所以上存在しており、監督官1人あたり1,600箇所以上だ。平均的な年間監督数で換算すると、すべての事業場に監督に入るのに 25~30 年程度必要な計算となってしまう。また、労働者 1 万人当たりの監督官数で比較すると日本は0.53 人で、アメリカを除く主要先進国と比して 1.2 倍~3.5 倍の差がある。

労基署に訴え出るにしても、「被害状況を被害者が立証しなければいけない」というハードルがある。残業時間の記録を細かくとり、それに対して残業代が支払われていない状況を説明できるだけの材料があればよいが、それだけでも一苦労という職場では泣き寝入りになってしまうケースも多い。

また、会社の悪意が判明したとして、労基署が是正勧告するに至ったとしても、それは強制力のない「行政指導」であり、公権力の発動として業務停止命令や許可取消などが行われる「行政処分」ではない。したがって、勧告に従わなかったことで会社に何ら不利益はないところが、ブラック企業を跋扈させている一因とも考えられる。
(東京労働局における平成25年度の総合労働相談件数は「114,797件」であったが、そのうち労基法違反など、司法事件として送検まで至った件数はわずか「58件」であった)

(6)労働時間だけが問題じゃない!〇〇も問題だろう!?

⇒その通りだ。今起きている問題は、労働法制のみならず、労働慣行や企業文化、日本人のメンタリティなど根深い原因が存在している。これまでなんとかうまく回ってきたシステム自体が制度疲弊を起こしており、改善・改革のためには、そんな問題意識をもったあなたのアイデアと実践が必要なのだ。ぜひお力を貸してほしい。

今が最後のチャンス

これまでの労働政策審議会における議論はずっとウォッチしてきたが、結局一度もまとまることなく、労働時間上限設定は合意に至らなかった。しかし今回は総理を座長とし、労使の代表が席についている会議が開催されているという、最後のチャンスなのだ。

電通やワタミのことは正義感を持って批判するのに、自分たちの働き方を変えようとしないのはおかしくないだろうか。

誕生日を祝う、旅行を楽しむ、運動会や学芸会を観る… 家族とともに過ごせる時間なんて、一生にわずかしかない大変貴重なものだ。そんな当たり前のことが長時間労働の犠牲になるなど本末転倒でしかない。「人として当たり前のことが、当たり前にできる国」にしていこうではないか。

最後に、SF作家アーサー・C・クラーク氏のお話を引用しておきたい。

「革命的な発展が成される時、人々は次の4つの段階を通る」

1.ばかげている。時間の無駄だ。
2.面白い。けれども、重要じゃない。
3.良いアイデアだと、私はずっと言っていた。
4.私が最初に思いついたんだ。

最後は「それが当たり前の世の中になって、誰も有難がらなくなる」という所だろう。残念ながら、長時間労働については、まだ1~2段階くらいだろう。

皆で改革を進めて、全員で「自分たちの世代で日本は変わったんだ!」って自慢しようではないか。

長時間労働撲滅プロジェクト

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